東京地方裁判所 昭和51年(ワ)4923号 判決 1980年8月22日
原告
テナコーポレーシヨン
被告
チノン株式会社
上記当事者間の標記事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 原告
1 被告は原告に対し、金1500万円及びこれに対する昭和50年12月11日から支払ずみまで年5分の割合による金員の支払をせよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言
2 被告
主文同旨の判決
第2当事者の主張
1 請求の原因
1 原告は、昭和47年12月19日、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)の設定の登録を受けた。
特許番号 第669405号
発明の名称 カートリツジ型テープレコーダ
出願日 昭和42年7月21日
出願番号 昭42-46672号
出願公告日 昭和45年9月10日
2 本件発明の願書に添附した明細書に特許請求の範囲として記載されたところは、別添特許公報該当欄記載のとおりである。
3 本件発明の構成要件は、次のとおりである。
A 記録テープを含むカートリツジを受容するための機構と、
B 前記受容機構内に挿入されるカートリツジ内に設けた記録テープのトラツクに記録した信号を再生するため前記カートリツジ受容機構に対し隣接して支持せしめたトランスジユーサと、
C 前記カートリツジを前記受容機構内に挿入したときトランスジユーサを通過するテープを引くための機構と、
D 前記トランスジユーサを所望の複数のレベルの1つに位置決めすることによつて再生すべき所望の信号を含むトラツクを選択するための機構と、
E 最良の変換特性を得るため前記選択機構によつて選択される不連続なトラツクレベルにトランスジユーサの位置を正確に選択的に一致せしめるよう再生の間テーププレーヤの前面パネルから操作者によつて操作される調整機構と、
F より成るカートリツジ型テーププレーヤ。
4 被告は、昭和45年9月10日から同49年12月31日まで別紙目録記載の物件(以下、「被告物件」という。)を製造、販売した。
5(1) 被告物件の構造は次のとおりである。
A' 記録テープを含むカートリツジを受容するための挿入口1と、
B' 前記挿入口1内に挿入されるカートリツジ内に設けた記録テープのトラツクに記録した信号を再生するため前記挿入口1に隣接して支持せしめたトランスジユーサ2と、
C' カートリツジを前記挿入口1に挿入したときトランスジユーサ2を通過するテープを引くためのキヤプスタン3と、
D' 前記トランスジユーサ2を所望の複数のレベルの1つに位置決めすることによつて再生すべき所望の信号を含むトラツクを選択するための機構4と、
E' 最良の変換特性を得るため前記トラツク選択機構4によつて選択される不連続なトラツクレベルにトランスジユーサ2の位置を正確に選択的に一致せしめるよう再生の間テープレコーダの平板状をなす前面部分から操作者によつて操作される調整機構51ないし54と、
F' より成るカートリツジ型テープレコーダ。
(2) 本件発明の構成要件と被告物件の構造とを対比すると、被告物件の構造A'ないしF'は本件発明の構成要件AないしFをそれぞれ充足するから、被告物件は本件発明の技術的範囲に属する。
6(1) 被告は、被告物件の製造、販売が本件特許権を侵害するものであることを知り、又は過失によりこれを知らないで、昭和45年9月10日から同49年12月31日までの間に、少なくとも7万5000台の被告物件を製造、販売して、本件特許権を侵害した。
したがつて、被告は原告に対し、上記侵害行為によつて原告の被つた損害を賠償すべき義務がある。
(2) 原告は、特許法第102条第2項の規定により、被告に対し、本件発明の実施に対し通常受けるべき実施料相当額を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができるものであるが、上記の通常受けるべき実施料は、被告物件の販売価額の5パーセントであるところ、被告物件の総売上高は少なくとも金4億5000万円に達するから、上記総売上高に実施料率100分の5を乗じた金2250万円が被告の上記侵害行為により原告が被つた損害の額となる。
よつて、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償として、上記損害金2250万円の内金1500万円及びこれに対する不法行為の後の日であつて訴状送達の日の翌日である昭和50年12月11日から支払ずみまで民事法定利率年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1ないし3の事実は認める。
2 同4の事実は期間の点を除き認める。
3 同5(1)の事実及び5(2)のうち被告物件の構造A'、B'及びF'が本件発明の構成要件A、B及びFをそれぞれ充足することは認めるが、その余は否認する。
4 同6の事実については、被告が被告物件を製造、販売したことのみ認め、その余はすべて争う。
3 抗弁
特許庁昭和50年審判第4930号事件において、昭和55年1月8日、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとして同法第123条第1項第1号の規定によりこれを無効にする旨の審決がなされ、上記審決に対しては同法第178条の規定する期間内に取消の訴が提起されなかつたため、上記審決は上記期間の経過をもつて確定したものである。
よつて、本件特許権は初めから存在しなかつたものとみなされるから、原告の請求は理由がない。
4 抗弁に対する認否
抗弁前段の事実は認める。
第3証拠関係
1 原告
1 甲第1ないし第13号証、第14号証(昭和49年年撮影の被告物件の写真)、第15号証を提出。
2 乙号各証の成立は認める。
2 被告
1 乙第1号証、第2号証の1ないし6、第3ないし第5号証を提出。
2 甲第3号証の成立は不知、第14号証が原告主張のような写真であること及びその余の甲号各証の成立は認める。
理由
1 原告が昭和47年12月19日本件特許権の設定の登録を受けたこと、しかし、特許庁昭和50年審判第4930号事件において、昭和55年1月8日、本件発明についての特許を無効にする旨の審決がなされ、上記審決に対しては特許法第178条の規定する期間内に取消の訴が提起されなかつたため、上記審決は上記期間の経過をもつて確定したことは、当事者間に争いがない。
上記事実によれば、本件特許権は、同法125条本文の規定により、初めから存在しなかつたものとみなされるから、本件特許権の存在を前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく、理由がないこと明らかである。
2 よつて、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(秋吉稔弘 水野武 設楽隆一)
<以下省略>